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もうそうだぶんのかたこんべ(仮設)

こんぷれいんつ・ぶろぐ別邸。中の人などいない。

妄想駄文

 

 

 メイドが笑っている。もとい、嗤っている。しかし残念な事に彼女の嗤う姿は決して愉快な光景ではない。

「……相変わらず酷い笑い方しかしないのね。貴女の笑う顔は何度見ても好きになれないわ」

「またまたぁ。笑い方一つに難癖つけるなんてお嬢様はマナー教室の講師か何かですかー? 笑う事は良い事ですよ? 女性の笑う姿は心の荒んだ男子には重宝されるらしいですし」

顔の造形自体は決して悪い物ではなし笑い方も少し変えれば普通に美人な筈なのだが、彼女自身が笑う対象のせいもあってか、ケタケタ、ケラケラ、ゲラゲラといったオノマトペがとても良く似合う。見ている側としては非常に気分を害する笑顔である。

「災害の犠牲者や行方不明者の数を見て嗤う姿が重宝されるとはおもえないのだけれど」

……彼女の嗤う対象は決まって悪いニュースばかりである。他人が苦しむ姿を見るのが何よりもコストパフォーマンスの高い娯楽であるという持論を常日頃から展開しているこのメイドにとっては、ここ最近頻発している震災や超大型台風などによって発生した多くの被災者の姿はとても痛快なものであるのかもしれない。現に、目の前で放送されているニュース特番を見ている彼女は今にも腹を抱えて笑い転げそうな勢いだ。

「人を食った様な顔……って形容詞は貴女の為にあるのね、きっと」

「別に人間なんて食べた事ないですし食べるつもりもないですよー。わざわざ人を殺して食べるなんて、誰かに見られたら大変じゃないですか」

「見られていない環境でなら躊躇なく食べそうな言い様ね」

「疑り深いババア様ですねお嬢様は……目的ではなく手段として人を食べるんだったらまだ分かりますけど、それにしてもやっぱり証拠隠滅の方法としては難易度が高すぎて現実的ではないですねー」

「何の手段として何の証拠隠滅に利用したいのかしら」

「あれ、聞いちゃいます? それ言っちゃって良い奴です?」

「…………」

楽しみが増えたとばかりに眩しい笑顔を見せ付けるメイドとは裏腹に、主人たる女性は酷く卦体な顔である。お互いに感情を隠さない辺り、決して不仲という訳ではない。

「まぁ何せよ人に見られなくても手軽に証拠隠滅できる手段であったとしても、あんなもの食べませんよ私は。美味しくなさそうですし、そもそも共食いは病気の元ですからねー。知ってました? 同じ種族同士の共食いはヤコブ病の原因になるらしいんですって。一昔前に話題になった狂牛病ってのも正確には"変異型クロイツフェルトヤコブ病"、つまりは同じ病気なんですね。きっと食人族の皆さんも実はスポンジ脳のせいで滅んだのかも――」

「凄くどうでもいい情報ありがとうもう良いから止めて」

「為になる話なのに失礼な人ですねー、全く。しかし"人を食った様な"、ですか。へぇ……」

知識をひけらかしただけでは満足しなかったのか、胡散臭い笑顔は未だに主人の前から離れない。

「…………何よ」

「いやぁだってオカシイじゃないですかカテジナ、じゃなかったお嬢様。人を食ってるといえるのは寧ろお嬢様の方なんですから。広義的にではありますが、吸血鬼たるお嬢様は人の生き血を啜って命を繋ぐ生き物であるからして、私よりもずっと人食いに近い存在だと思うんですけど、そこん所どう思います、お嬢様?」

「……吸血鬼と食人鬼は別物よ。それに、私は脳がスポンジになんてなっていないわ」

「ありゃ、そう言われればそうでしたね。失礼でしたね」

「とても失礼ね」

「分かってて失礼してますけどね」

「それも知ってる」

ひとしきり話し込んだ挙句、満足そうな笑顔をして去るメイドであった。結局はどんな状態にせよ笑顔を絶やさない彼女の場合、寧ろ素の表情を見た人間の方が少ないのかもしれない。

「やっぱり貴女の笑顔は好きになれないわ、私」

去り際に声をかけた主人の女性に対して、表情一つ変えることなく。

「私は好きですけどね-。お嬢様のとっても不快そうなその顔なんか特に」

メイドが嗤っている。